ドラゴンクエストIXがDSで発売される理由

スクウェア・エニックス、DS「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」発表
今日のドラゴンクエストシリーズ生誕20周年記念の新作発表会において、次回のナンバタイトルである「ドラゴンクエストIX」がニンテンドーDSで発売されることが発表された。発売時期は2007年(恐らく年度ベース?)とのことである。今回の発表におけるサプライズは今の時期に公表されたことを除けば、「DS」で「2007年中」に発売、という2点である。もちろん、これまでのオーソドックスなRPGからARPGに変更されたこと、WiFiを使ってMO化されたことなどゲーム内容の変更もあるが、これは堀井氏の方針及びDSで発売されることに対応したものであると考えられるため、本稿では取り上げない。
 まず、DSで発売されることについてである。これまでドラクエシリーズは一貫して据置機で発売されてきた。Ⅰ〜ⅢがFC、Ⅳ〜ⅥがSFC、ⅦがPS、ⅧがPS2である。いずれの機種もその世代において最も普及した据置型ゲーム機であり、スクウェア・エニックス経営陣による「ドラクエは最も普及したゲーム機で発売する」という方針に沿っていた(実際にはⅥまではあまり意図したものではない気がするが)。DSの発売台数は1,200万台超であり、DSが現時点において(そして来年度中においても)最も普及しているゲーム機あることは間違いないため、今回についてもその方針そのものは守られたことになる。
 ちなみにこの「ドラクエは最も普及したゲーム機で発売する」という方針には合理的な理由がある。それは「300万本販売しなければならない」というスクエニ社の経営上の問題である。歴代のドラクエの販売本数(出荷本数かも)をみると、ⅠとⅡ、それにⅥを除いていずれも300万本以上販売している*1。恐らく、スクエニ社の社内方針ではドラクエの期待発売本数は300万本超に設定されているはずである。300万本を販売するためには、当然それなりにゲーム機本体が普及している必要がある。俗説として言われていることになかに「40%ライン」がある。「40%ライン」とは「どんなに売れるソフトでも本体普及台数の40%が上限となる」ということである。理論的な根拠は何もないので、ファミコンで680万本出荷したスーパーマリオゲームボーイで400万本超出荷したテトリスをもとにした経験則と思われるが、この「40%ライン」をもとに300万本売るために必要な本体の販売台数を計算すると750万台となる。過去、750万台以上普及したゲーム機はそれぞれの世代において最も売れたゲーム機しかない。このことから、上記方針は必然的に定められたと考えられよう。
 ただ、ここでひとつ疑問が残る。「Wii/PS3/XBOX360のなかで750万台売れるゲーム機が出てくるまで待てなかったのか」ということである。携帯用ゲーム機据置型ゲーム機では大きな違いがひとつある。ソフトの値段である。現在、DS向けソフトは4,000円〜5,000円台、PS2向けソフトは5,000円〜6,000円台であり(いずれも実売)、だいたい1,000円程度の差がある。たかが1,000円であるが、300万本売ることを前提にすると3億円の差になる。2006年度上期のスクエニ社の決算をセグメント別にみると、最も稼いでいるオンラインゲーム事業で営業利益は26億円程度、ゲームコンソール事業は8億円の赤字となっており3億円は小さくない。なぜ、利益を削ってまで携帯型で発売するのか?
 ここで発売時期が2007年となっていることが重要な意味を持つことになる。最近のドラクエとFFの発売時期をみると、ファイナルファンタジーX-2(2003年4月)、ドラゴンクエストⅧ(2004年11月)、ファイナルファンタジー12(2004年3月)と必ず別の年となっている。これは売上を安定化させるための方策であり、そのためにスクウェアエニックスが合併したといえる*2。すなわち、ドラクエを2007年に発売するということは、FF13は来年中に発売しない、ということになる。FF13は既にtrailerが公開されており、ある程度開発が進んでいるとみられる。にもかかわらず、1年以上発売を遅らせるわけである。
 その理由は言うまでもなくPS3の不振にある。11月11日の発売以降、PS3の販売台数は1ヶ月で16万台程度にとどまっており不振を極めている。SCEの言い分では年内に100万台程度供給するという話だったが、到底守られそうにない。来年以降を見ても、売上を牽引すると思われるソフトは少なく、しばらくはWiiの後塵を拝する可能性が高い。そのため、スクエニは来年度にFF13を発売しても売上本数が見込めないと判断したのではないか。スクエニにとって、FFもドル箱であり、過去の売上本数から推定すると200万本程度は見込んでいるはずである。先の「40%ライン」を当てはめると、200万本売るために必要なPS3の普及台数は500万台である。SCEの生産体制がどうなるかわからず、ヘタをすると販売どころか生産すらこの水準が望めない可能性すらある。そのなかで虎の子のFFを投入するのは無謀とのスクエニの判断は当然と言えよう。
 恐らく、2007年中にFF13が投入できなくなったため、急遽ドラクエⅨを投入することにしたのではないか。堀江氏のラジオでの発言を見る限り、開発自体は以前からやっていたと思われるが、年末商戦まっただ中のこの時期に新作発表することは異例である。新作発表は、上場企業の場合は決算発表かE3や東京ゲームショウなどで行うことが通例であるからだ。わざわざこの時期に発表したことから類推されるのは、最近になって方針変更したと考えるのが妥当だろう。2007年中にドラクエを投入する場合、300万本超の販売が見込まれるハードはDSかPS2しかない。次世代据置機が販売され、PS2の寿命が尽きかかっている現状ではDSしか選択肢がなかった。Wiiについては、販売台数の問題に加えて年末に発売予定となっているDQSとの棲み分けの問題があるため回避したとみられる。Wiiドラクエを発売すると仮定すると、来年発売という縛りがあるなかではDQSと異なるアプローチを考えるのは難しいだろう。さらにうがった見方をすれば、据置型の次世代機の勝者が確定していないので、いったん携帯型に待避して、改めてドラクエⅩを据置型の勝ちハードに投入する、ということも考えていると思われる。

そして、DSはスーパーマリオポケモンドラクエが初めて揃い踏みした最強のハードとなった。

疲れたorz
なんか、色々抜けている気がするけどいいや。

*1:Ⅵの販売本数も280万本であるから、事実上300万本と考えてかまわないと思われる。

*2:両者が合併する前から、基本的にドラクエとFFは別の年となることが多かった。